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第1部 本

脳&心理&人工知能

シンギュラリティは近い [エッセンス版]―人類が生命を超越するとき(カーツワイル)

『シンギュラリティは近い [エッセンス版]―人類が生命を超越するとき』2016/4/26
レイ・カーツワイル (著), NHK出版 (編集)


(感想)
 2045年、AIが人類の知性を上回り、ついに私たちは生物の限界を超えてシンギュラリティへと到達する……という未来がかなり確実に訪れることを予想している本です。
 科学技術を中心にした未来予測がすごく具体的で、「確かにそうなる可能性も高いかも……」と思いながら読んだのですが、驚かされたのは、実はこの本は2007年に出版された『ポスト・ヒューマン誕生』のエッセンスをまとめて再編成したものだそうで、すでに10年近くも前に出された内容のものだったのに、内容に古臭い錯誤感がほとんどないこと……しかも一部は、すでにこの本の予想通りに進んできていたことです。
 ところで「シンギュラリティ」という言葉、すでにご存じの方も多いとは思いますが、知らない方のために一応解説させていただきますと、「われわれの生物としての思考と存在が、みずからの作り出したテクノロジーと融合する臨界点であり、その世界は、依然として人間的ではあっても生物としての基盤を超越している」ということだそうです。「シンギュラリティ以後の世界では、人間と機械、物理的な現実と拡張現実(VR)との間には、区別が存在しない」のだとか……。
 現在はIoTが流行で、身近な家電に続々と「知能」が組み込まれていっていますが、この本ではそれを超えて、人体にさまざまな科学技術の結晶が組み込まれていく未来を予想しています。たとえば患者の腫瘍に薬を運ぶマイクロマシンなどは、すでに研究者が開発中ですが、同じように栄養を代謝ロボットで血液に直接送り込むことも可能になるはずで、2020年の終り頃までには、このような技術が成熟してきているだろうとか、同様に排泄ナノボットも役目を果たすようになれば、腎臓のように血液中の不純物を濾過する装置は不要になるだろう、などと予想しています。
 また人間の脳のリバースエンジニアリングのために、ナノボットが脳のあらゆる毛細血管を駆けめぐり、有意義なニューロンの特徴一つひとつを、ごく近くからスキャンすることができる……などという記述を読むと、なんかSF(ファンタジー)として、ずーっと遠い未来のことだと思っていたことが、実はかなり近い将来に実現可能なのかも、と感じさせられてしまいました。
 そしてもしも人工知能(AI)に人間の脳の完全な模倣が出来るようになったら、本当にあっという間に、全世界に人間の脳と同等レベルのコンピュータが散らばっていくことになるのかもしれません。なにしろコンピュータの得意技はコピー。人間の脳を育てるには、脳のニューロンに学習させるために、かなりの時間が必要ですが、コンピュータならダウンロードする時間だけで学習できてしまうのですから。
 ……いや、それだけでなく、実は人間の脳のニューロンの機能が完全に解明されたなら、人間の脳にも、コンピュータと同じように記憶をダウンロードできるようになるのかもしれないそうです。究極の「睡眠学習」って感じでしょうか?
 でも、これがバラ色の未来なのかどうか、私には自信がありません……(汗)。栄養や排泄のような基本的な維持機能まで科学技術の産物にお任せで済むようになった人間の「人体」は、何をするのでしょうか? そもそも進化は「必要にせまられて」発展してきたように思いますし、効率化のために「働かなくなった(=不要になった)もの」は退化していくのが進化の仕組みなのだとしたら、人間の内臓はどんどん退化して、しまいには消滅してしまうのかも……そして、それによって余ったエネルギーは、次に人間のどこを進化させるのでしょうか? また、身体の外に拡張された脳に自分の記憶が移植されることで、不死を手に入れるとしたら……それは「自分」の延長なのでしょうか?
 意識とは、魂とは、人間(生物)と機械の境目はどこにあるのか? それとも、そんな境目はそもそも不要なものか……いろんな妄想が触発される本でした。科学技術と人間とに関わりの未来を予想した本でしたが、実際には、すごく哲学的な内容の本だったと思います。
 科学技術をどの方向に発展させていくか、現在はまだ人間が主導権を握っています。「シンギュラリティ」が近づいている現在、どのように未来を発展させていくか、私たち一人一人が真剣に考えていくべきなのでしょう。
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 別の作家の本ですが、『シンギュラリティ: 限界突破を目指した最先端研究』、『人工知能の都市伝説』、『人工超知能が人類を超える シンギュラリティ―その先にある未来』、『人工知能と21世紀の資本主義─サイバー空間と新自由主義』など、シンギュラリティや人工知能に関する本は多数あります。
 なお脳科学やIT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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