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中央銀行が終わる日: ビットコインと通貨の未来(岩村充)

『中央銀行が終わる日: ビットコインと通貨の未来 (新潮選書)』2016/3/25
岩村 充 (著)


(感想)
 日本銀行出身の経済学者の岩村さんが、ビットコインに代表される「暗号通貨(仮想通貨)」と、中央銀行の金融政策や貨幣について分かりやすく解説するとともに、未来の通貨や中央銀行の役割について深く考察している本です。
 特にビットコインについては、単なる技術的な解説にとどまらず、「貨幣」としての機能や性質について、経済学者の立場から分かりやすく教えてくれるので、とても参考になりました。なかでも「電子マネーと地域通貨」というパネルでの解説が、とても分かりやすかったので、少し長いのですが以下に紹介させていただきます。
「Suicaなどの電子マネーは既存の円やドルなどの貨幣を預かったり立て替えたりしていて、それで生じる支払義務や請求権をICカードやサーバーなどに記録しているだけで、電子マネーというシステムが新たな価値を作り出しているわけではない。これに対してビットコインには、そうした外の世界からの「価値の取り入れ」がなく、マイナーたちがPOWに投じた設備費や電気代そのものが、たとえば金や銀の採掘費が金や銀の市場価格を支えているのと同じように、その価値源泉となっている。これはビットコインが、いわゆる「地域通貨」とも異なる点である。地域通貨の多くは、労働奉仕や寄付などの実物経済の世界での意味がある活動の価値を紙幣その他の価値媒体に化体させる、つまり価値の根源を貨幣の外の世界から取り入れることで成立していて、「貨幣を作り出すのにかかった資源消費そのもの」が貨幣としての経済価値を支えているわけではない。」
 どうです? すごく本質的なことを、分かりやすく解説してくれているでしょ?
 この他にも、ビットコインはヤップ島の「巨石貨幣」と通じるものがあることなど、身近な例をあげて解説してくれるので、この本を読んでようやく理解できたことも色々ありました(汗)。
 ところで本書のタイトル『中央銀行が終わる日』というのは、「景気政策を行う中央銀行」という時代が終わるのはないか、という話のようで、中央銀行自体が「終わる」という話ではありません。……個人的には、もちろん終わって欲しくはありません。というのも、ビットコインのような暗号通貨(仮想通貨)のことを、今でもまだ信頼できないからです。
 たとえば、「ビットコインが本当に使えることに多くの人が気づいた」のは、ユーロに参加しているキプロス共和国の金融事情に異変が生じて混乱が発生した時だったそうで、その時、海外(特にロシア)からの預金者が逃げ出そうとして、当局による海外送金監視の網の目を逃れて資金を国境の外に持ち出す方法として浮上したのが「ビットコイン」だったのだそうです。……つまり「ビットコイン」が注目されたのは、当局などの監視の網の目を逃れることが可能だったからで……こういう側面があることに懸念を感じずにいられません。
 そして価格がかなり変動してきたことにも大きな不安を感じます。おそらく今後も価格が長期間にわたって安定していくという保証は誰にもできないのでしょう。
 それでも「紙幣」が、今後どんどんデジタル化していくという流れは避けられないのだとも思います。それが実際にどんな形になるかは不明ですが……。
 さて、この本を読んで、中央銀行や銀行券の歴史が意外に浅く(イングランド銀行にポンド紙幣の独占的な発行権を付与するピール銀行条例が制定されたのは1844年)、そもそも「日本円」でさえ必ずしも完全に信頼できるものではないのだな、と感じてしまいましたが(汗)、それでも自分の預金全額を「ビットコイン」にするぐらいなら、日本円でタンス預金しておいた方がずっとマシな気がします(汗)。
「第5章 中央銀行は終わるのだろうか」で岩村さんも、「中央銀行の役割として残るのは、安定した「価値尺度」を提供するという役割」で、「銀行券の価値を安定させて、それが金融契約の基盤として役割を最大限に果たせるよう努力することこそ、今は中央銀行などと呼ばれている彼らの最後に残る使命になるし、また彼らに最も向いた役割になるのではないでしょうか。」と語っていますが、アナログであれデジタルであれ、「通貨」の価値を安定させる役割を、中央銀行が今後もずっと果たしてくれることを願いたいと思います。
 未来の通貨を考える上で、本当にいろいろ勉強になる本でした。ぜひ読んでみてください。
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 岩村さんの他の本、『貨幣進化論―「成長なき時代」の通貨システム』に関する記事もごらんください。
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 岩村さんは、他にも『コーポレート・ファイナンス』などの本を出しています。
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 別の作家の本ですが、『FinTechの法律 (日経FinTech選書)』、『FinTechが変える! 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』など、仮想通貨に関する本は多数あります。
 なお脳科学やIT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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