ちょき☆ぱたん お気に入り紹介 (chokipatan.com)

第1部 本

脳&心理&人工知能

模型は心を持ちうるか―人工知能・認知科学・脳生理学の焦点(ヴァレンティノ ブライテンベルク)

『模型は心を持ちうるか―人工知能・認知科学・脳生理学の焦点』1987/6
ヴァレンティノ ブライテンベルク (著), 加地 大介 (翻訳)


(感想)
 サイバネティクス研究家のブライテンベルクさんが、機械的なモデルを使って脳の進化について考察している本です。1987年発行のすごく古い本ですが、私にとって、脳科学や心理学への考え方にパラダイムシフトを与えてくれた衝撃的な本でしたので、ここで紹介させていただきます。
(注:サイバネティクス=通信工学と制御工学を融合し、生理学、機械工学、システム工学を統一的に扱うことを意図して作られた学問)
 この本を読むまで、人間の脳や心理については、すごく「高次なものなので」、人間そのものか、少なくともネズミなど「心」を持っているように見える動物を調べるしかないものだと考えていたのですが、「機能のごく一部については、単純な機械モデルでも再現可能なのかもしれない」ことを思い知らされ、新たな研究アプローチへの視点を切り開かされました。
 この本は二部構成になっていて、第一部では、簡単な装置で構成されている各種の模型が提示され、第二部では、その模型がモデルとした生物の脳などに関する事実が紹介されます。
 すごく興味深かったのは、このうち第一部で、ここに出て来る機械的な模型は、すごく単純な構成をしているのに、外から見ると、確かに「心」を持っているようにも思えるところです。
 例えば第1号機は、温度に比例するモーターを持っているだけの模型で、暖かいところでは早く、寒いところではゆっくりと動くように作られています。こんな単純な構成なのに、この模型は、予想できない地面の摩擦も加味されて、ふらふら左右に蛇行して動き回るのです。そう、まるで「生きている」かのように……。
 そして第2号機は、センサーとモーターのつなぎ方の違いで、刺激に向かったり、刺激から逃げたりします。そして、この様子を外から眺めると、この模型は、臆病な性格や、攻撃的な性格を持っているように見えないでしょうか?
 ……という感じで、「概念を持ってるような」模型10号、さらには「何か決意を持っているかのように見える」第14号機まで、だんだんと進化していく模型が提示されていきます。
 すごく面白かったのが、第6号機。ここではダーウィン的な淘汰が、模型の複製作業で表現されています(ここで模型の複製をするのは、私たち人間ですが、機械自身に複製させることも出来るようになることでしょう)。「複製しそこなう=突然変異」という考え方も、ダーウィン進化っぽく感じられました(笑)。なるほど、この機械的な模型は、脳の機能だけでなく、進化まで表現できるんですね……。
 ただし、第14号機までの進化を見ていくうちに、だんだん機械の構造が分からなくなってきて(汗)、どうしてこの模型には、こんな妙な構造をさせる必要があるのだろう?と不思議に思わなくもなかったのですが(汗、汗)、第二部を見て、その理由がようやく分かりました。これらの模型は、実際の生物の脳の構造などからヒントを受けていたからだったのです。
 なるほど……こういう「人間の脳」への理解の仕方があるのだなー、と感心させられました。
 そして「心」って、いったい何なんだろう?とも感じました。もしもこれらの模型が、「概念」や「決意」を持っているように外から見えるならば、たとえ機械でできている模型であっても「心を持っている」と言っても構わないのでは?
 それでも、もちろん人間の「心」は、ずーーっと「高次」で「神秘的」なものだと今でも思ってはいます。でも、こんな感じに模型を利用して「単純化」することで、その理解への糸口をつかむことも出来そうな気がします。
 嬉しいことに、この模型的なアプローチは、この後、脳神経モデル(ニューロ・コンピュータ)や、深層学習(ディープ・ラーニング)へと繋がっていき、各分野でどんどん成果があがっています。コンピュータは、すでに「ビックデータ」を活用して、今後を予測する(全体的な傾向・動向をつかむ)ことが出来るようになっていますが、コンピュータ自身にもその理由を説明できないとか……これはひょっとしたら、コンピュータが「勘(直感)」を持てるようになったと言えるのかもしれませんし、コンピュータがどう予測するか私たち人間が推察できない以上、彼(コンピュータ)はすでに「自由意志」を持っているとすら言えるのかもしれません。(この本の中で、ブライテンベルクさんは「生物の決定能力を否定する方法はひとつしかないからである--それは、あらゆる時々にその生物の未来の行動を言い当ててしまうことである。完全に決定された脳であれば、そのメカニズムを知らされればその活動の予言は可能なはずである」と語っています。この考えでいけば、コンピュータはすでに「自由意志」を持っていると言えるでしょう。)
 そして、たとえ脳神経モデル(ニューロ・コンピュータ)や、深層学習(ディープ・ラーニング)などの研究が、「人間の心を理解」ことに直接つながっていかなくても、何らかの形で「役に立つコンピュータ・システムを作る」ことが出来るだけでも、素晴らしいことだと思います。今後も、これらの動向に注目していきたいと思っています☆
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 ブライテンベルクさんのこの本は絶版になってしまったようですが、Kindle版の『Vehicles: Experiments in Synthetic Psychology (MIT Press) (英語)』などの本があります。

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