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第1部 本

作文技術

ベストセラー小説の書き方

『ベストセラー小説の書き方 (朝日文庫)』1996/07
ディーン・R. クーンツ (著), Dean R. Koontz (原著), 大出 健 (翻訳)


(感想)
 知的な犬と孤独な中年男が心を通わせていく『ウォッチャーズ』などの超ベストセラーのミステリー作品を次々生み出してきた作家が、ベストセラー小説の書き方を教えてくれる本です。1996年のちょっと古い本ですが、今でも参考になります。
 以前に紹介した『日本語の作文技術』、『理科家の作文技術』は、明確に意思を伝えることを目的としたテクニカル・ライティングの本ですが、この本は、小説という芸術作品を書くことを目的とした作文技術を教えてくれます。
 ところで、詩や小説などの芸術作品を書くための作文技術は、論文に必要とされるテクニカル・ライティング技術とは違い、読み手が自由に意味を読み取れる方が良い場合もあります。特に詩の場合には、短い文の中に多くの意味を含ませるために、わざと曖昧な表現を使うこともあるでしょう。また小説の場合は、読み手の想像を超えた展開が常に期待されるので、誤解を誘う表現をわざと利用して、読者が「騙された」と怒りを感じない程度に、情報を提示しながらも違う方向を向かせておく……という高度なテクニックが必要とされる場合もあります。このように単純に「明快に意味が分かる」作文技術だけでは書けないのが、小説の書き方です。また、矛盾するようですが、ある意味、どんな書き方でも許される分野とも言えます。
 ただし、この本の著者のクーンツさんは、ベストセラーとして多くの人に読まれるためには、文体はストレートでリズミカルなものでなければならない、と明快に言っています。分かりにくい表現や思わせぶりな描写は、ほんの少し使う分にはストーリーに深みを与えるのに役立ちますが、多すぎると読者は離れていってしまうでしょう。
 そんなクーンツさんが教えてくれる「ベストセラー小説の書き方」なので、自分の文章を例にあげた具体例が多くて、とても分かりやすいです。また、明確な表現でテンポよく展開していくので、ミステリーでもないのに、一気に読めてしまいます。
 内容の一部を紹介すると、「第四章 ストーリー・ラインを組み立てる」の中の「最初の三ページが勝負だ」では、「読者は、作家名、表紙、小説の種類、宣伝文句、そして最初の数ページで購入を決める。最初の数ページ以内で、主人公を困難に落として、なにか普通でない状況を見せつけ、読者の興味をひきつけよ。そして相次ぐ困難で主人公をさらに追い詰めよ」……要約すると、このような趣旨のことを教えてくれます。他にも、主人公が持つべき資質や、場面転換の方法など、小説を書く時に役に立つヒントが満載です。
 また、さすがベストセラー作家は心構えがちょっと違う、と思わされたのは、「第三章 移り変わる出版市場」。読者や市場のニーズを考えて、どんな小説を書くかを考えよう(例えば、SFはブームと人気下降の周期を繰り返すジャンルなので、安定したベストセラーになりにくいなど)という話で、なるほどなー、ベストセラー小説は商品なのだから、家電と同じように市場(出版社や読者)のニーズを考えることも必要なのだなと思わされました(クーンツさんは、本は、多くの人に読まれなければ意味はない、という考え方をしています)。
 本の最後には、クーンツさんお勧めの作家別読書ガイド(作家名・書籍名)がついています。――小説の描写力や構成力を向上させるには、経験を積むしかない。そしてその経験を積むためのたった二つの方法は、まず「他人の小説を読んで読んで読みまくること」、そして二つ目は、「他人の小説を読んでいない時には、自分の小説を書いて書いて書きまくること」――真摯なクーンツさんの教えに、頭が下がる思いです……。
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 ベストセラー作家や芥川賞作家が教えてくれる創作の秘密やコツに関する本としては、他に、スティーヴン キングさんの『書くことについて』、大沢 在昌さんの『小説講座 売れる作家の全技術 デビューだけで満足してはいけない』、島田 雅彦さんの『小説作法ABC』、保坂 和志さんの『書きあぐねている人のための小説入門』などがあります。
 また、編集者の立場からの『[実践]小説教室: 伝える、揺さぶる基本メソッド』も参考になるでしょう。
 その他、『小説の技巧』、『物語の法則 強い物語とキャラを作れるハリウッド式創作術』、『アウトラインから書く小説再入門 なぜ、自由に書いたら行き詰まるのか?』など、小説を書く技術の向上に役に立つ本は多数あります。

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